●入荷●ディレイラブリューワークス(大阪、西成)

本日三本(三作)目はこちらっ!
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【海梅(うみうめ)】
●味わい
梅干しの持つ塩分のみで乳酸発酵させた、
爽やかな酸味と塩味のサワービール
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●ストーリー(ブルワリーweb siteより)
リングの上で、太陽はふたつもいらないだろう。
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そう言 われたのはボストンバッグ一つ引っさげて、
入団させてくれと頼みに行った16の春だった。
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春なのに、めずらしくこの街にも雪が降っていて、
押し退けるように梅の花が一輪だけ咲いていた。
枝を覆い尽くす真っ白な雪の中、
ぽつんとピンクの色をしていて。
なぜだかはわからないが、
あの花をずっと俺は覚えている。
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本当はわかっている。
俺のグランマ ‐俺には日本人の祖母がいて、
ニシナリという街の話を俺によくしてくれた。
俺を、ずっと育ててくれた人だ‐ が
ずっと好きだった花なんだ。
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物心ついたときには、
両親は俺のそばにはすでにいなくて、
グランマがずっと俺を育ててくれた。
ケイコって名前だったけど、
俺にはグランマって呼べって口を酸っぱくして言っていた。
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俺は泣き虫で、ずっと苛められていた。
庇ってくれたのは隣に住んでいる同級生のマツザカだけで。
俺にはマツザカとグランマしか世界がなかった。
泣き止むことの無い俺を見兼ねて、
グランマは梅の花の実を赤く漬け込んだものを取り出してきて。
俺とマツザカの口に放り込むんだ。
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すごく酸っぱくて、
顔を顰めているうちに、涙が止まっていた。
泣きそうなときは、
この実を口に入れたらいいのさ。
いつか涙も忘れちまうよ。
グランマの口癖だった。
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プロレスラーになりたいわけじゃなかった。
マツザカが俺を誘ってくれて、
二人で頂点を目指そう。
そしていい車を買って、家も買って。
肉を飽きるまで食ってやろうぜ。
マツザカにも俺にも、豊かさがそれ以外にわからなかった。
それが俺たちの世界で。
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俺たちの街じゃ、
15を過ぎれば、みんな働きに出るのが当たり前だった。
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グランマは俺に上の学校に行くことを薦めた。
だけどこれ以上グランマに迷惑をかけたくはなかった。
はやく自分だけで生きていきたかった。
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俺が寝たあと、梅の花の実を齧りながら、
内職をしていたのを知っていた。
きっと泣きそうなぐらい辛かったに違いない。
それぐらいは俺にでもわかった。
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グランマを早く安心させたかったから。
毎月手紙を書いた。
少しずつ筋トレの数値が上がったこと。
新人戦でマツザカとタッグを組んで優勝したこと。
地方のドサ回りで人気が出始めたこと。
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グランマを早く安心させたかったから。
早くグランマにいい肉を食わせてやりたかったから。
グランマにデカい家をプレゼントしてやりたかったから。
俺の活躍はすべて仕送りに添えた手紙に書いて、伝えた。
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グランマは俺の試合を見に来たいといつも言っていた。
あんたの活躍する姿が早く見たいねえ。
だけど俺は試合には一度も呼ばなかった。
16のときに、太陽は2ついらないと言われ。
俺は月として、ヒール(悪玉)として
リングの上に立っていたのだ。
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俺はベビーフェイス(善玉)になれなかった。
ずっと手紙で嘘をついていた。
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手紙の中の俺は、ずっとヒーローだった。
子どもたちのスターだった。
俺のラリアットで、俺のキック一つで歓声があがる。
実際の俺は、ブーイングの数だけ金になる。
そんな男だったのに。
ずっとそれを言えずにいた。
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グランマを呼べないまま、彼女は逝ってしまった。
もう俺のリングの姿を見せることはできなくなってしまった。
肉を飽きるほど、
食わせてやることもできなくなってしまった。
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葬式が終わったあと、俺は夜の海に、
梅の花の花びらを浮かせた。
グランマが部屋で倒れていたとき、
花びらを握っていたらしい。
何もかも吸い込んでしまうような
紺と黒の境目のような海の色に、ほのかにピンクの色をした、
梅の花びらが、沈むことなく沖の方に流れていった。
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紺と黒の境目に、吸い込まれることなく、
ずっと、ずっと、花びらは浮いていて。
滲んではひとひら、滲んではひとひら、海に沈んでいった。
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すべての花びらが沈んでも、
俺の視界はずっと滲んでいて、なにも見えなくなっていた。
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見えないままでよかった。
すべて沈んだら、グランマが逝ったことを認めてしまいそうで。
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俺は今日もリングに立ち続ける。
ブーイングは俺への愛情だ。
どうしようもないクズを求めるどうしようもない日常を。
過ごさざるを得ないやつたちのために。
俺はリングに立ち続ける。
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マツザカが太陽として輝き続け、
俺はあいつの光を受けて存在し続ける。
そして、今日もリングから、観客席を一瞥する。
いないはずの、グランマが。
いつも、どこかで見ているような気がするんだ。
俺は梅の実を、口に入れる。
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以上です。
男性視点のストーリーですが
切ない感情が伝わってきますね。
ビールを飲みながらストーリーを味わってくださいね
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